【事例】技術の伝承が急務! わが社に必要な職能の見える化プロジェクト
技術の伝承がうまくいっていない
国内の少子高齢化の影響を受け近年、企業においては若手社員の採用がうまく進まず、高齢社員の頑張りで事業を続けている企業は多いといえます。とは言え、そのベテラン社員はいずれも職場を卒業していくことは避けられません。企業独自のノウハウを持つベテラン社員が去っていくことは企業の財産の喪失でもあり、どの企業でも技術・ノウハウの確かな伝承は喫緊の課題です。
伝統のある製造業
今回、栃木県南部の製造業(伝統企業です)から技術の伝承をどうすればよいかの相談を受け、エルシーアールからは、まずはその企業にとって必要な能力やスキルを明確にすることが先決であることを提案しました。この企業では作業手順書はあるものの、従業員による属人化ノウハウがたくさんあり、「その人でなくてはできない仕事」が多数を占めていました。他社に対して競争力を持てば持つほど反比例するかのように属人化は進む傾向は否めないのが中小企業の宿命かもしれません。
当社からの提案に対し、まずは「職能の見える化」を進めようということでコンサルティングはスタートしました。
業務の棚卸しをする
まずは自分の部署の業務には何があるのかの棚卸しを行いました。所定の帳票に、年・半年・3か月ごと・毎月・毎週・毎日の仕事には何があるか細分化して記載していきます。
次にその各仕事にはどのような能力やスキル(または資格)が必要かを記載していきます。一見同じ作業でもベテランにしか任せられないタスク、若手に任せられるタスクのレベル(若手はここまででよい)があることが見えてきます。
職位(等級)ごとに整理する
次に、職位(いわゆる等級)別にその業務と必要能力を振り分けていきます。ただし、本来若手がおこなうべき業務を若手がいないからベテランが行っている場合も多々あります。このような場合には、「本来、どの職位が行うべきか」を部門長が検討し、適正な職位に振り分けて整理します。
これらを部門全体の業務に展開していくと、職位別に必要な業務とその能力が整理され「職能の見える化」ができました。約10部門で構成されるこの企業では部門の数だけの職能体系図が作成できました。
職能をつけるための教育は企業がやるべきこと
企業はその能力をつけ社員として成長させるために計画的な教育を行うことも必要です。自己研鑽だけに頼っていては従業員の成長は思うようにはいきません。そこで作成された職能体系図と対をなすべく、その能力をつけさせるために、どの職位に対し、どのような教育を、どの時期に行うかも見える化します。これを教育体系と呼びます。OJT形式もあれば外部でのOff-JT形式、Eラーニング形式などの方法はそれぞれの事情に合わせて設定します。特殊なノウハウは、OJT形式でベテラン社員から学ぶのがよいでしょう。実際には「勘所」を形式的なOJTだけではすぐに習得するのは難しいでしょう。でもその業務の基本をちゃんと学ぶことはノウハウ獲得の第一歩です。
職能体系は人事考課の基準にもつながる
今回の職能体系を行うことは、技術の伝承だけではなく人事考課のベースにもなります。求められる職能は、すなわちその企業が求める人物像でもありそのコンピテンシー(成果を出す人の行動特性)とも言えます。
人事考課では上司の好き嫌いやあまりに簡易な評価シートで評価をおこなうのではなく、求められる人物像(コンピテンシー)をベースにして評価をおこなうことのほうが、はるかに人材の成長につながり、納得感も上がることでしょう。
株式会社エルシーアール 事業推進部 取締役部長 若色 宏幸