【コラム】人材マネジメントを考える
人が育つことが、人事評価の目的
人事評価や査定は働く人が報酬に納得感を高めるために行われます。
では、人が良い仕事をし、組織が目指すゴールを働く人が共有し、目指すべき人材が育つためにはどのようなことが必要になるでしょうか。
納得感が成長の基礎
人事評価は働く人が納得感を得られなければなりません。評価の基準が明確で納得できる内容である必要があります。多くの企業では階層や等級ごとに基準である要件が決められています。しかし、それは企業の様々な業務を包括した抽象的な表現にならざるを得ません。
階層等の要件は、業務ごとに具体的な内容にする必要があります。では具体的な行動はどうやって決めるのでしょうか。
人材像の具体化した業務ごとの推奨行動を評価する
人を雇い、よい仕事をさせるためには、組織が目指すゴールを働く人たちと共有し、具体的な仕事の達成基準を明確にするだけでなく、実際の勤務態度や仕事の成績、能力・意欲を具体的にする必要があります。そして、継続して観察・評定することが不可欠です。評価は働く人に規律をもたらすだけでなく、賞与や賃金の決定、昇降格を通して金銭報酬の合理的な配分を実現し、働く人の報酬の納得感を高める働きをします。
このような査定の緊張感がないと、仕事の目標や規律があいまいになり、改善や成長への動機づけが失われ、組織の能率の低下やマンネリ化、士気の低下を招きます。
では評価のフィードバックや金銭報酬のインセンティブを強化し続ければ、物事がいつもうまくいくかというと、それだけでは済まない事情があります。
評価だけで人は変われるのか?
高い評価を受けたとしても、人は他人の評価やお金のためだけに働くのではありません。
低い評価を受けたとしても、人は我慢やあきらめ、無視といった負の学習を通して、生活者のプライドを守ることができる。どちらにしろ、人は年月を重ねるうちに、それぞれの経済的・心理的報酬感に見合う自己満足や惰性の領域で仕事をするようになり、それ以上に頑張ろうとは考えなくなります。これが査定主義の限界です。
他方で、査定を超越して、仕事そのものの面白さや働く人どうしの関係性がもたらす幸福感を何よりも大切にする人たちがいます。また、変化する状況の中で、力を合わせて仕事を進化させ、困難を乗り越えて成果を上げる醍醐味や、社会を支える責任感や変革をもたらす使命感に大きな意義を感じる人たちがいます。
金銭報酬+自己達成感
人がこうした境地に至る背景には、人としての成長感や自己実現の満足など、高次元の仕事でしか得られない心理的・社会的報酬の蓄積があります。例えば、ふとした出来事で自己達成感を持ったことが自信につながり、その満足を得たいと精進を重ねるうちに、仕事がますます面白くなったというような経験です。
そこでは、他人の評価というよりも、達成したことの意味や価値を自分で強く感じ取り、肯定的な自己評価や人間的な覚醒・成長感を得たことが内面的な満足となり、強い心的エネルギーをもたらす源となっています。金銭報酬の秩序や査定はもちろん大事ですが、これからの評価は、むしろこのような金銭査定の力が及ばない人間力に焦点を当て、そのポジティブな可能性を引き出すことに注力する必要があります。
個人の成長とチームの成長を軸に支援する
最も効果的な方法は、査定を軸とした上司と部下の関係性から、仕事を通したチームの成長を軸に、心理的・社会的報酬の質を一緒に高めていく関係性に意識的に変えていくことです。そのために、部下と目標や評価基準を共有するだけでなく、具体的な仕事の要所について1on1の話し込みやOJTを小まめに行うとよいでしょう。働く人が仕事の中で自己達成感を持てるような、支援的・共感的な関わりの場を持ち続けることが肝要です。
このように一人ひとりの状況に合わせた成長支援的な関わりをする上司であれば、人は進んで評価を受け入れ、そのフィードバックにも真摯に耳を傾けるようになります。
株式会社エルシーアール 参与 大木 啓樹