食品安全マネジメントシステムを構築する

 

 

 

 

 

 

1 FSMSの概要

FSMSとは、ISO22000やFSSC22000、SQFをはじめとする、食品安全マネジメントシステムの総称(Food Safety Management System)です。企業が組織的に食品の安全を脅かす危害(ハザード)を管理する仕組みを構築し、それを運用することで、消費者の皆さんに安心で安全な食品を確実に届けるのです。「食の安全」をFSMSというシステムで保証をすることを目指しています。

2 食品業界を取り巻く背景

昨今の日本国内における、フードサプライチェーン(原料の生産から消費者までの食品提供の一連の工程)の過程で有害物質が混入された事件として記憶に新しいものは、2000年の近畿地方を中心に発生した雪印乳業(現:雪印メグミルク)の乳製品(主に低脂肪乳)による集団食中毒事件や2007年に発生した千葉県や兵庫県において高濃度の有機リン系殺虫剤メタミドホスに汚染された中国製冷凍餃子の中毒事件が挙げられます。

この2つの事件がこれまでの日本国内の食品業界における食中毒事件と似て非なる点は、その被害の発生範囲の広さです。

これらを契機に食品関連の事業者の間では、これまでの認識とは異なる「フードディフェンス」という新たな考え方に大きな関心が集まりました。食の安全を脅かす事件がひとたび起こるだけで、会社存続の危機に瀕する事態となります。その予防策に現在各社が取り組み始めているのです。

3 FSMS取得に向けての企業の現状と動向

フードディフェンスに関心が高まるなか、日本国内の法整備と各企業の経営戦略とが相まって、FSMSの取得に向けた食品関連の企業の動きが、年々活発になってきています。

(1)食品衛生法の改正によるHACCP手法の導入義務化

2018年6月の食品衛生法の改正に伴い、日本ではHACCP手法を全ての食品に関する業種・企業が2020年6月以降、導入することが義務付けられました。(2021年6月までは「経過措置期間」現在、それを導入するために、各企業が奔走しています)HACCPは食品衛生上の「手法」のことを言います。アメリカ発の衛生管理手法であり、7原則12手順に構成されています。時折混同されている方もいますが、ISO22000やFSSC22000は、ある審査機関が認める「規格」になります。

話をHACCPに戻しましょう。従来の衛生管理手法と言えば、最終製品の抜き取り検査等でした。これに対してHACCP手法とは、技術的・科学的根拠に基づいて食品の製造工程の過程において、製造ロットのすべてを保証しようとする考えです。HACCP手法を認定する機関はいくつかの種類に分かれ、国内では大きく3種類に分けられます。詳しくはHACCPの詳細ページをご参照ください。

(2)FSMS取得の必要性の高まり

経営戦略上、FSMSの取得の必要性が年々高まりを見せています。

日本国外へ輸出をするなど、経営戦略上国際的にビジネスを展開していくことを考えている企業は、世界を相手に事業展開をしていくために、国際規格であるISOやFSSCは必須となります。世界で通用する国際規格を取得することで、自ら企業ブランドを高めるのです。

また、顧客先にFSMSの認証取得が取引条件として求められる場合も増えてきました。例えば大手百貨店などの小売業やOEMの委託元など、国内の大手企業を相手に事業展開を行う場合、相手先からの要求事項もハイレベルになります。その一つとしてFSMSの取得があるのです。

(3)他社との差別化

世界市場を相手にした事業展開を目指していない企業でも、FSMSの取得が増えてきています。「県内の○○業界で初めての取得」などという言葉が新聞の紙面に載っています。食品業界は、他業種に比べてISOなどの国際規格の導入が遅れていた業界の一つです。それを逆手に取り、他社との違いを明確にすることで差別化を図り、企業価値を高めようと認証を取得する企業が増えています。

 

 

 

 

 

 

 

4 主なFSMSの簡単早わかり表

FSMSと一言で言っても、世界にはいくつもの食品安全規格があります。いざ取得するぞと思ってどれを取得したらよいのか混乱する企業も多いとよく聞きます。

ここでは、前述の管理手法であるHACCP手法を認定する一例として、地方自治体によるHACCP認証の「とちぎHACCP」と国際規格である「ISO22000」と「FSSC22000」の3種類の規格について、違いを整理しながら確認していきます。

  とちぎHACCP ISO22000 FSSC22000
位置づけ 食品安全のガイドライン 国際標準規格 国際標準規格
審査基準 審査機関による
独自のガイドライン
(栃木県食品自主衛生管理認証制度実施要綱)
世界共通
(ISO22000要求事項)
世界共通
(FSSC22000要求事項)
認定または審査機関 栃木県保健衛生事業団
栃木県食品衛生協会
民間の審査機関 民間の審査機関
適用範囲 主に食品製造業者 食品業界の全業種 食品業界の全業種
主な特徴 ●従来の衛生管理の方法と異なり、食品製造の各工程に異物混入や微生物汚染などの危害が発生する要因を分析する。
●リスク管理上、重要な工程は継続して監視することで、その食品の安全性を確保する管理手法。
●HACCPチームの編成や危害分析など、「7原則12手順」が示されている。
●食品業界に対する「食品安全」における要求事項。
●HACCPとISO9001の特徴を組み合わせて食品の流通全体の安全を確保する国際規格。
●食品の製造過程だけでなく、生産者などの食品の製造前段階に関わる事業や小売業などの製造後に関わる事業も対象となっている。
●施設などのハード面において、ISO22000にさらに厳しく要求事項を設けている世界最高峰の国際規格の一つ。
●管理をより適切かつ厳正に行うために独自の追加要求事項がある。
●国際食品イニシアチブであるGFSIが示している食品安全マネジメント。

5 FSMS取得の6つのメリット

企業がFSMSを取得し、フードディフェンスを高めることで得られるメリットは対外的にも対内的にも非常に大きいと言えます。

① 信用・信頼の獲得
・安心・安全な製品・サービスを提供するための仕組を構築・運用することで、顧客企業や消費者をはじめとするステークホルダーから「安心・安全に対する意識の高さ」について評価され、大きな信用・信頼につながります。

② 食品衛生法への適合
・2018年6月に法制化された改正食品衛生法に適合します。

③ ブランド力の強化
・消費者などの取引先に安全・安心な製品・サービスの提供をPRでき、ライバル企業に対して優位に取引を進められます。
・国際規格の取得により、顧客となりうる大手企業小売業者から求められる取引要件を満たすことができます。

④ リスク管理
・食品安全ハザードの明確化により、工程トラブル・顧客クレームの減少及び予防処置を図ることができます。

⑤ 社員の意識改革
・企業の理念・方針を一人ひとりに浸透させ、食品安全に対する意識改革に寄与することで、リスクを低減できます。
・法規制への遵守を会社全体で徹底できます。

⑥ 業務の最適化
・製造工程の可視化により、ムダが排除され、作業効率およびボトルネックの改善を図ることができます。
・PDCAサイクルを継続的に進めることで、課題を明確にするとともにそれを常時改善していくことができます。

 

 

 

 

 

 

6 取得までのスケジュールとコンサルティングの内容

ISO22000の取得の場合

① 第1フェーズ:「理解する段階」約2か月間
システムやマニュアルを構築していく上での準備期間となります。ISOメンバーへの規格の説明を通して、メンバー一人一人への落とし込みを行います。また、その企業様が現状抱える課題、ステークホルダーの洗い出し等、現状分析を行っていきます。

② 第2フェーズ:「作成する段階」約4か月間
理解したHACCP手法の理論をもとに、一般衛生管理事項の整備を行います。多くの食品関連事業者が当たり前のように行っていることかと思いますが、施設・設備の衛生管理の仕方、社員への衛生面に関する教育、施設設備や機械器具の保守点検など、ハード・ソフト両面に置いて、衛生管理のあり方を整備し直し、徹底させます。

第2フェーズでは、現状把握で得た情報を生かして、実際のマニュアルやシステムの構築を行います。まったく新しいことを始めるのではなく、これまで積み上げてきたことを生かして構築していくことがポイントとなります。

③ 第3フェーズ:「実行する段階」約3か月間
構築したシステムの運用を行うとともに、そのシステムやマニュアル、積み上げた帳票類が適切であるかどうかのフィードバックをする期間となります。このフィードバックが内部監査であり、マネジメントレビューを指します。
内部監査とは、一度決めたルールやマニュアル、工程が守られているか、不具合はないかを内部の人間によって監査を行うことです。「ISOの要求事項に適合しているか」「組織で作成した文書が正しく管理、運用されているか」「マネジメントシステムは有効に機能しているか」などを確認し、組織をより適切に運用したり管理したりすることができているように改善を図る良い機会となります。

また、マネジメントレビューとは、「経営層による見直し」とも訳されるもので、内部監査や、外部監査の結果などを基に、ある期間の経営管理全般を振り返ります。そして経営における問題点・成果・今後の懸念材料などを見直すのです。そのため、マネジメントレビューは経営者を含む経営者層が実施することとなります。

④ 第4フェーズ:「審査を受ける段階」約3か月間
審査機関による審査は1次審査と2次審査の2段階で行われます。1次審査は文書・書類を中心に、2次審査は実際の運用状況を審査します。どちらの審査も審査員が事業所(工場など)を訪問して審査が行われます。

また、審査において不適合事項や指摘事項に対する是正対応を求められ、後日審査機関に報告することとなります。その後、審査機関および認定機関での登録手続きが行われ、晴れて認証取得となります。

    コンサルティング回数
コンサルティングフェーズ 主な内容 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

<準備>

※現場確認あり

キックオフ、状況確認、HACCPメンバー選定、スケジュール確認                      

<システム理解>

要求事項の理解                    
HACCP手法の理解                      

<システム構築>

(規程、帳票類の作成)

※現場確認あり


 

HACCP手法構築

・製品別危害分析と重要管理点

・一般衛生管理事項(PRP)

               
マネジメントシステム構築                    
<システム運用> 運用状況確認                  
内部監査                      
マネジメントレビュー                      
審査文書の確認                      
<審査~認証>

1次審査(文書審査)と是正処置対応

 

                     
2次審査(運用審査)と是正処置対応                      
認証                      

7 FSMSの規格とは!?

ここでは、代表的なFSMSのなかから、国際規格であるISO22000とFSSC22000と衛生管理手法であるHSCCP手法の規格について詳しく見ていくことにしましょう。

(1) HACCP

① HACCPの概要
HACCPとは、Hazard(危害)Analysis(分析) and Critical(重要) Control(管理) Point(点)の略で、従来のような最終製品の検査ではなく、製造、加工、調理など製品の製造工程のすべてにおいてその安全性を保証する食品安全管理システムです。

前述ですでに触れましたが、従来型の「食品の安全性」とは、製造する環境を清潔にそしてきれいにすることができていれば、安全な食品が製造できるであろうと考えられていました。そのため、製造環境の整備と衛生の確保に重点が置かれるとともに、最終製品の抜取り検査で食品安全を謳ってきたのです。しかし、これでは不十分であると唱え、浸透してきたのがHACCPです。

HACCP手法はこれまでの考え方や方法に加え、原料の入荷から製造・出荷までのすべての工程において、あらかじめ危害を予測し、その危害を防止するための重要管理点(CCP)を特定します。そして、そのポイントを継続的にモニタリングすることで、異常が認められた場合でもすぐに対策を取ることでき、結果的に不良製品の出荷という安全性を脅かす事態を未然に防ぐことができるのです。

さて、HACCPの導入にあたっては、Codex委員会(食品の安全性と品質に関して国際的な基準を定め,この国際基準との調和を図るよう推奨するべく、厚生労働省は農林水産省等とで構成し、食品の国際基準の策定に貢献しています。7原則12手順と指針で定めています。

② HACCPの規格の構成
HACCPを構築していくために、12の手順をふむ必要があります。そのなかでも手順6から手順12までが特に重要であり、この7つの手順を「HACCPの7原則」と呼んでいます。これがいわゆるHACCP「7原則12手順」です。

では具体的に確認していきましょう。

手順1:HACCPチームの編成
関連する部署から、HACCPの実務に深く関わる社員を集め、チームを作ります。適切な衛生管理を行うためには、原材料や製造方法、設備の取り扱い、品質保証などについて、実務に秀でた人を選ばなくてはいけません。加えて、食品衛生に関する知識に長けた人が参加できるとさらに効果が高まります。

手順2:製品説明書の作成
衛生管理を行うために、製品に関する情報をまとめた製品説明書を作成します。原材料・添加物の名称やその量・包装形態・消費期限・保存方法など、その製品の特性を表す情報を整理して作成します。

手順3:意図する用途や想定される消費者の確認
自分たちの製品がどのような消費者にどのような用途で使用されるのかを想定します。例えば食品容器を製造している場合であれば、どのような物がその容器に入り、消費者がどこでどのように使用するかを考えるのです。それを製品説明書に記載するのが一般的なパターンです。

手順4:フローダイアグラムの作成
原材料の受け入れから製造、納品先に引き渡すまでの全ての作業を「フローダイアグラム(製造工程一覧図)」としてまとめます。

手順5:フローダイアグラムの現場での確認
HACCPチームのメンバーで、実際の現場の工程が、自分たちが作成したフローダイアグラムと合致しているかを現場で確認します。

以上が12手順のうちの前半の5手順であり、いわばこの後の7つの手順=7つの原則の前準備としてイメージしてみてください。

では、7つの原則であり残りの7つの手順を確認していきます。
手順6(原則1):ハザード分析
手順4で作成したフローダイアグラムに基づき、原材料の受け入れから、製品の引き渡しまでの全ての工程においてハザード(危害要因)となりうるものを明らかにします。またそれらのハザードの程度も合わせて分析し、それぞれの工程における重大な危害要因が何であるかを特定します。危害要因を科学的・生物的・物理的に分けて分析することが必要になります。

手順7(原則2):CCPの設定
明らかにしたハザードをどの段階でどの程度まで制御するかを決定するのがこのCCPになります。CCPとはCritical(重要) Control(管理) Point(点)の略であり、重要管理ポイントと呼ばれています。
具体的な制御として、例えばハザードを加熱で減らす、冷蔵で増やさないなど様々考えられますが、その制御を実際に行う工程が、CCPです。場合によっては、1つの工程だけではなく、複数の工程の組み合わせによってハザードを制御することもあります。

手順8(原則3):管理基準(許容限界)の設定
次に、ハザードを制御して食品の安全を保つための管理基準を想定して決めます。許容限界とも呼ばれ、科学的な根拠に基づいた定量的なものである必要があります。具体的に言えば、温度や時間、水分含量などの数値で表せるものになります。

手順9(原則4):モニタリング方法の設定
手順8で設定した管理基準を実際のすべての工程が満たしていることがどうかを監視することをモニタリングと言います。温度や時間などの数値をいつ、誰が、いつ、どのように、どのくらいの頻度でモニタリングするのかどうか具体的に設定します。

手順10(原則5):改善方法の設定
モニタリングの結果、基準値を外れたことがわかった場合はすぐに改善措置を取らなくてはいけません。手順10は、原因の特定方法や、工程の正常化や問題の対象物の排除方法など、改善するための解決方法を決めるのです。

手順11(原則6):検証方法の設定
CCPと設定した工程が手順8~10で定めた通りに実際に実施されているかどうか、また、適切に機能しているかなどを検証する方法を定めるのがこの手順11になります。

検証方法には、モニタリングの記録の確認や測定方法の精度の確認、管理基準値からもれた際の処置が適切であるかどうかの確認があります。また、製造の最終段階に置いて最近の含有量などのハザードが、設定した安全なレベルに収まっているかどうかの確認も該当します。

手順12(原則7):文書化と記録の保持
最後の手順12として、手順1~11までで作成・設定した内容を文書化するとともに、それに基づいて工程を管理した状況となっているか、記録として残すことが求められています。

これらがHACCPに基づく衛生管理を策定した通り間違いなく実施しているという証拠となるのです。また、問題が発生した場合には、早急な原因究明にも役立つことにもなります。誰が責任者であり、何を記録し、どこに保管するのかなど具体的設定し明らかにします。

③ HACCP手法の導入の意義
これまでの方法では安全管理のチェックをすり抜けて、市場に出てしまっていた現状がありました。しかし、このHACCP手法の7原則12手順では工程の段階で細菌の発生や異物混入などのリスクを大きく軽減することができます。
また、基準値から外れた商品を見つけた場合の対応方法もすでに想定し明確にしているため、食品ロスなどの面においても有効であると考えられています。