「割れ窓理論」
「割れ窓理論」ってご存知でしょうか。
割れ窓理論(ブロークンウィンドウセオリー)とは、環境と犯罪の関係を表したアメリカの犯罪学者による理論として有名です。割れた窓ガラス1枚を放置しておくと隣の窓ガラスが割れ、その「放置」によってビルが荒廃し、やがては街全体が荒廃してゆくというものです。人は「放置された乱れ」を継続してみてしまうと、このままでもいいのだなと解釈してしまう性質をもっているようなのです。
1980年代のニューヨークでは地下鉄車両の中の落書きがひどかったそうです。それを職員が落書きされても消すことを粘り強く繰り返した結果、やがて落書きをする人はいなくなり治安のよい地下鉄になったといわれています。
つまり「小さな乱れを放置しない」ことが治安をよくするために必要なことであるとされているのです。
企業で活かせ「割れ窓理論」
私たち企業や組織でも同じことが言えます。
私たちが暮らす地域・社会と同様に、企業においても様々な決まりごとがあります。例えば就業規則や作業マニュアルなどです。決まりごとになっていなくても、暗黙の常識やしきたりを守りながら私たちは仕事をしています。
でも人間はそもそもさぼる生き物、楽をする生き物でもあるので、その決まり事が面倒と感じれば、守らないということを起こしてしまいます。誰でも窓を簡単に割ることができるのです。これは悪意がなくても起きるものです。
例えば、整理整頓。所定の位置に工具をしまわなかったり、机が乱雑であったり。
あるいは食品工場で手洗い手順1回60秒と決まっていることを無視して勝手に30秒で済ます。書類を社外に送付する場合には上司の承認が必要なルールなのに、一度そのルールを破ってもお咎めがなければそれが常態化してしまう、なども典型的な例です。
決まり事の無視が常態化すれば、組織は無法化し、統制もままならなくなりやがて弱体化していくでしょう。
管理職は“小さな乱れを放置しない”ことが大切
では誰がその割れ窓の負の連鎖を止めなければいけないのでしょうか。それは管理職の人々です。管理職は割れた窓を見つけたら部下からイヤだと思われても注意し正さなければいけません。放置させてはいけないのです。
私もかつて「放置していた」失敗経験があります。毎朝、必ず3分遅刻してくる社員がいました。夜遅くまで仕事をすることが多く、成果重視の開発系業務だったため、朝の2、3分の遅刻を細かく指導しませんでした。放置していたのです。しかし他の部下から不満が出てきました。「なぜA君の遅刻はよいのか」と。職場の雰囲気が悪くなり士気は下がりパフォーマンスは低下していきました。
これではいけないとその後は毎朝、下駄箱の前でA君の出社を待ち構え、遅刻がなくなるよう粘り強く指導したところ、やがてA君の遅刻クセはなくなりました。もちろん組織力も元に戻りました。やはり放置はいけないのです。
管理職は自信をもって指導を
今日、パワハラ扱いされるのを怖がり「言うべきことを言えない上司」が増えています。でも強い組織にしていくためには摩擦を恐れず小さな乱れを放置しない姿勢が管理職やリーダーには求められているのです。
株式会社エルシーアール 事業推進部 部長 若色 宏幸