第二回 認知で目標を伝える
前回からコーチングというかかわり方を、単に部下の育成だけに留まらず、マネージャーのリーダーシップの向上やチーム力の強化などマネジメントに活用するという視点でのコーチングの活用について書いています。
第2回は、「認知・承認で目標・課題を伝える」です。
目標と聞くと、期の始めに社長から発表される「今期の重点目標」を思い出す方も多いと思います。社員の方に「今期の会社の目標は伝わっていますか?」と訊くと、「わからないです」「聞いてないです」と答える方が多いです。それを、その会社の社長に話すと「そんなはずはないんだけどな。社員集会で全員に話しているのですけどね」と言われます。
社長は話した。社員は聞いていない。なぜ、こんなことが起こるのでしょうか?
社長が会社の目標を話す際には、全社員向けに発表されるもののため、表現が抽象的であったり、目標が組織全体について書かれているため社員にとってピンと来ないということもあるのではないでしょうか。経験の豊かな社員や管理職は、社長が言った抽象的なことも、自分の経験から「社長の言っていることは、こういうことなんだろうな」とイメージをすることができます。しかし、経験の浅い社員にとっては、イメージをすることができないため、理解できない、そのために記憶に残らないということが起きるようです。
しかし、ある部署の社員は、若手であっても社長が話したことをしっかりと理解しています。それは、なぜなのでしょうか?
そういう部署のマネージャーは、社長が話した重点目標や重点課題を「自分たちの部署にとっては、○○○をすることです」と翻訳されているのです。それによって、若手であっても「そういうことか」と腹落ちするという訳です。これを部署の会議で話すことと共に、それ以外の場面でもすることができます。
それは、「認知・承認」をする時です。
「認知」とは、事実を伝えることで、そこには評価は入りません。例えば「さっきの会議で積極的に発言していたね」これは「認知」です。これに評価を入れて「さっきの会議で積極的に発言をしていたのは、とても良かったよ」になると「承認」です。これを比べてみてどうでしょうか?「良かったよ」という評価が入らなくても、言われた方は「認知」だけでもほめられていると感じるように思いませんか。よく「ほめる」のは「照れくさい」という方も多いと思いますが、そういう方には「認知」がおすすめです。
話がそれてしまいましたが、この「認知・承認」を使って、会社の重点目標や重点課題をわかりやすく伝えることができます。例えば、今期の重点課題が「失敗を恐れず、新たなことに挑戦しよう」だったとします。人によっては、「自分の仕事は決められた手順通りにする作業だから挑戦することなんてない。挑戦をするのは開発や営業といった人たちだ」と解釈している人もいると思います。そんな職場で、例えば、Aさんが「ここのやり方を変えた方が作業時間を短縮できるんじゃないでしょうか」とマネージャーに提案した時に、マネージャーが「今、Aさんが言ってくれたことは、今期の重点課題の新たなことへの挑戦だね」と認知をすると、Aさんだけでなくこの話を聞いていた人たちにも、自分たちにとっての新たなことへの挑戦だということが伝わります。
このように「認知・承認」を使って、抽象的な目標だけではなく、会社の理念やバリューをわかりやすく伝えることができます。ぜひ、「認知」を積極的に使ってみてはどうでしょうか。
次回は、「未来を共に描く」について書いてみたいと思います。(つづく)
株式会社エルシーアール 人づくり講師 竹内 義博
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