【コラム】想定外と不祥事は、なぜ繰り返されるか 第5回

 

 

 

 

 

 

 

第5回 ~沈黙は金ならず~

前回は、想定外の事態から不祥事が発覚したケースについて、大型トラックのリコール隠しを例にお話しました。今回は、説明責任を果たさずに沈黙を続けた自動車部品メーカーをクローズアップします。

「沈黙は金なり、雄弁は銀なり」の格言は日本で生まれたものではなく、イギリス人のトーマス・カーライルが記した「Speech is silver, silence is golden」に由来します。

一方で、説明責任を果たさない沈黙も金だと、勝手に解釈をするケースを見かけます。

 

死亡事故“エアバッグ異常破裂”

2017年6月、シートベルト等の自動車用安全部品で高い世界シェアーを持つ大手企業のタカタが、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、負債総額1兆円を超える経営破綻となりました。

当時、エアバッグの異常破裂による死亡事故が相次ぐ中、タカタは消極的な姿勢に終始したため、米国運輸当局からの指示により1億台規模のリコールを余儀なくされたからです。

米国で最初にエアバッグの異常破裂が発生したのが2004年ですが、タカタはその前から実験等でエアバッグに欠点があることを知りながら公表せずに販売を続けていました。

更に「リコールは自動車メーカーが行うもの」という考え方で経営トップが沈黙を続けたため、死亡事故への説明責任を果たさない行為として米国で多くの批判を浴びました。

法廷闘争中とは言え、タカタ創業家の高田会長兼社長が正式会見を行ったのが2017年。10数年間も「沈黙」を続けた結末が「経営破綻」でした。

優良企業を破綻に追い込んだ一因は、長期にわたって「グローバルな常識」に背を向けた経営トップの姿勢でした。 説明責任を果たさない沈黙は金ならず。

 

不正再発“シートベルト強度改ざん”

その後、タカタの事業を引き継いでいるのがジェイソン・セイフティー・システムズ・ジャパン(JSSJ)ですが、事実上は親会社である中国企業の傘下になります。

そして2020年10月、JSSJが法令で定める強度を満たしていないシートベルトを自動車メーカーへ供給していたことが発覚しました。

発覚したのは社内からの通報でしたが、旧タカタ時代からデータ改ざんが常態化していたとみられており、日経新聞は「旧タカタは2018年を機に再出発したにもかかわらず、不正の温床は放置されていた」と指摘しました。

注意すべきは、経営トップがグローバルな常識に背を向け、不正撲滅と説明責任を果たさなければ、どんな企業も「第二のタカタ」になりうる。ということです。

次号は最終回ですので、これまでのトピックスを総括してお話したいと思います。(最終回につづく)

株式会社エルシーアール コンサルタント 嶋脇 寛

 

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